【書評】 『野球×統計は最強のバッテリーである - セイバーメトリクスとトラッキングの世界』(中公新書ラクレ)

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【読者プレゼント有のアンケート:1/24まで】 梨田新体制1年目の楽天。あなたが選ぶ2016年活躍を期待する投手&野手



梨田新体制1年目の今年、チーム再建を目指す楽天です。2度目の日本一に向けて、揺らぎなき礎を築く元年、あなたが選ぶ、今年活躍を期待する投手、野手は誰でしょうか? 詳細は下記URLにて。
1/10朝8時現在13名の方々から御応募ありました。

http://tan5277.blog104.fc2.com/blog-entry-2947.html


2016新春、皆さんに一読をお薦めしたい必携バイブル!!



今シーズン開幕する前に、皆さんに是非一読をお薦めしたい一冊がある。

データスタジアム・ベースボール事業部でデータ分析に当たるアナリストの歴々(※)が執筆を担当した『野球×統計は最強のバッテリーである』だ。この新書は昨年8月に上梓されたが、なかなかブログで紹介できなかった。

(※・・・NHK BS「球辞苑」出演の金沢慧氏を中心に山田隼哉、佐々木浩哉、須山晃次の各氏)

私なんか既に通読すること3度以上。所々ひっくり返して確認すること10度以上。早くも2011年に発売された『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(岡田友輔・著 講談社+α新書)に続く「バイブル」になりつつある。

(下記に続く)

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■データスタジアム株式会社『野球×統計は最強のバッテリーである - セイバーメトリクスとトラッキングの世界』(中公新書ラクレ) 254ページ 本体820円+税

様々な数字を肴に野球を楽しむ"新たな観戦スタイル"の浸透



日本でもセイバーメトリクスが年々市民権を得てきて久しい。打率や防御率などの従来指標に止まらず、OPSなど古典的なセイバー指標からBatted BallやPlate Disciplineのプレーデータまで、多岐に渡る数字を肴に野球を楽しみ語り合う。そんな"新たな観戦スタイル"が浸透し始めている。

テクノロジーの発達によるビッグデータ社会の到来という世の中の潮流はむろん、トラッキングデータを公開したJリーグの取り組みからも、プロ野球は影響を受けている。Jリーグの挑戦は広くファンがデータでスポーツを楽しむトレンドを加速化させた。その追い風がプロ野球にも吹き込んでいる。

楽天やソフトバンクなど一部球団が他球団に先駆けてトラッキングシステムによるデータ収集を導入した件や、これまでセイバーから頑なに目を背けてきた老舗のベースボールマガジン社が昨年遂に『週ベ』誌面にセイバーを登場させオフにはセイバーでセ・パの2015年を総括する2冊のムック本を発売した試み、昨年10月31日に審判の技術向上を目的にPitch f/x導入の検討を開始するとしたNPBの表明も、こういった世間のトレンドや需要とリンクしているのだ。

今や、プロ野球の観戦スタイルに、セイバーメトリクスを始めとした数字は欠かせないものになったと言えそうだ。

セイバーの最適な入門書と同時に野球界に押し寄せるビッグデータ導入の最前線レポートでもある



そんな中、「今さらセイバーメトリクスって何!?なんて聞けないよね」。そういう不安な声も聞こえてくる。

しかし、御安心を。

皆さんのそんな不安を『野球×統計は最強のバッテリーである』が全て解決してくれるのだ。今後セイバーの楽しみに足を踏み入れていきたいと思うファンへの「最適な入門書」であると同時に、野球界におけるビッグデータ導入の「最前線レポート」、また、その概念を紹介する「丁寧な説明書」としても機能するのが、本書だ。


本書は254頁で綴られ、下記3つの章立てで構成されている。


第1章 セイバーメトリクスとは何か
第2章 セイバーメトリクス指標早わかり
第3章 トラッキングシステムの世界


※詳しい目次はエントリー最下記に記載したので御参照下さい。


セイバー入門書としての記述は、第1章、第2章だ。

よく名所・旧跡を訪れた時、入口に設置された全体地図の看板におおまかな説明文が記されていることがある。また、その前で観光ガイドがアレコレと我々訪れた者に解説してくれることもある。

それと同じで、「はじめに」と第1章ではセイバーの現在地を確認することができる。セイバーに詳しくないファンでも最近良く耳にするようになったピタゴラス勝率。なぜチームの得点・失点だけで勝率を予見できるのか?等の説明に始まり、セイバーが今どこに位置し、これからどこへ向かおうとしているのか? セイバーで分かっていること、その基本的な概念はどういったものなのか? アナリストはどういったデータを収集しているのか? 野球のデータに携わる関係者の立ち位置等も、セイバーにまつわることが鳥瞰し、分かり易く説明している。


▼データ分析のマトリクス(本書11頁より)


一口に野球データと言っても、取扱者の立ち位置によって視点や文法は全く違う



上のマトリクスのように、野球データを取り扱う関係者は4つに分類されると言う。

「GM、チーム編成部」
「研究家、統計愛好家、ビジネスパーソン」
「監督、コーチ、選手、スコアラー」
「スポーツメディア、スポーツファン」


セイバーメトリクスは、マトリクスの右半分、「GM、チーム編成部」「研究家、統計愛好家、ビジネスパーソン」が位置する戦略的な領域を守備範囲としてきた。『マネーボール』で描かれたアスレチックスのビリー・ビーンGMように、セイバーは当該球団が勝利を買うための戦略的概念だった。

一方、同じ野球データでも、味方打者の打てる確率をアップさせるような、対戦投手の攻略法を練るスコアラーや野村克也のID野球に象徴されるようなデータは、左半分の作戦・戦術的な領域に位置する。これらが目先の敵、目の前の1勝を目指すために用いられるのに対し、セイバーはマクロ的な視点で戦力を把握するため、全く異なる性質なのだ。

このことを分かり易く説明するために、2014年の大谷翔平を各々の立場でデータ分析すると下記になる。

まずはセイバーから。セイバーを取り扱うアナリストのことをセイバーメトリシャンと表現するが、彼らが大谷を評すると下記のようになる。

投手としては奪三振率(K/9)が10.37と規定投球回に到達したパ・リーグの先発投手として最も高く、被本塁打率(HR/9)は0.41でリーグ3位の数値。与四球率(BB/9)は3.30とそれほど良くないものの、投手の基本的な能力を測るFIPは2.41でオリックス・金子千尋に次ぐリーグ2位とリーグトップクラスの成績を残していた。


次にスコアラーの視点から。

球種は平均150キロ台のストレート、140キロのフォーク、130キロのスライダー、120キロのカーブがある。初球は対左右打者ともに5割以上がストレート。初球がボールになるとストレートでストライクを取りに来る傾向が強くなり、特に対左打者にはストレートがかなり増える。ボール先行カウントはほぼストレート狙いで良い。


このように、同じ野球データを取り扱って大谷翔平を語っていても、左半分の領域と右半分の領域では全く文脈や文法が異なる。同じ左半分の領域でも、メディアやファンがデータを用いて語ろうとすると、また違った形になるはずだ。

活躍領域が広がるセイバーメトリシャンの現在地



ただ、ここ重要なのだが、最近ではトラッキングで採取されたビッグデータ分析や画像解析も増えており、セイバーを専門とするアナリストの活躍の場は、左半分の領域にまで確実に広がっているとも記されている。

例えば変化球の習得。従来は現場の投手コーチが自らの経験則に基づき、投手を指導してきた。しかし、Pitch f/xで得られた投球の変化量データを基に、どのような軌道の変化球を習得できれば既存の球種との組み合わせが最も効率良くなるか?が判明しており、コーチングの領域までデータマンの活躍の場が広がっていると言う。

昨年暮れ、スポーツアナリティクスジャパン2015に登壇した山本一郎氏の講演では驚くべき最前線を聞くことができた。山本氏は楽天イーグルスのチーム戦略室アドバイザーで育成を担当する一方、MLB複数球団のデータ分析や評価に携わっていることでも知られている。MLBではDL入りした選手を解雇するかの判断やDLから復帰した選手のパフォーマンス確認も職掌の1つで、今ではMRI画像を山本氏らアナリストが見て、データ分析と共に参考にしながら判断を下すことがあると言う。従来はドクターやトレーナーの専門領域だった分野にまで、データサイエンティストの活躍の場が広がっているリアルなエピソードを知ることができた。

「はじめに」や第1章では、こういったことが説明されているのだ。

野球の構造が良く理解できる「奥行き」のある指標説明



第2章は指標説明だ。出塁率やOPSに始まり、ボールゾーンスイング率、wRAA、奪三振率、ゴロ割合、FIP、UZR、WARまで、合計15項目が紹介されている。

書籍という形でセイバーが我が国で本格的に紹介されたのは、2008年の『野球の見方が180度変わるセイバーメトリクス』(宝島社)だった。あれから8年経つ間に様々な類書が出版され、数多くのスタッツが紹介されてきた。今回紹介された15個は、その中を揉まれ、生き抜いてきた"厳選された重要指標"になっている。

セイバーを理解するのに必要最低限は知っておくべきと同時に、この15個をマスターできればその世界観の「かなりの部分」に迫ることが可能という"優れモノ"であるので、ぜひ熟読したい。

ところで、皆さんは出塁率をどういうふうに説明するだろう? 打者が出塁する確率? 確かにもっともだが、本書では「アウトにならない確率」と解説する。何もまわりくどい言い方せずとも・・・と思うが、それこそ「三つのアウトを取られるまでにランナーを本塁にかえす」という野球の攻撃における本質を突く説明なのだ。こういった「アウトにならない確率」と聞かされて、背筋に快感の稲妻が走ってしまうような、私のような野球ファンなら、まず間違いなく読んで欲しい章になっている。

与四球率はどうだろう? この数字が優れている投手はコントロールが良い。つい我々はそんなイメージをしがちだ。しかし、本書はコントロールには触れず「投手のストライクを取る力を表す指標」と説明する。

打者の出塁は安打や失策、野手選択や四死球など色々あるが、投手の力だけで減らすことができるのは四死球である。そのために必要な能力が「ストライクを取る力」になる。なぜ制球力に触れないのか?と言えば、必ずしもピンポイントのコントロールを必要としないからだ。球威のある真っすぐを持つ投手なら、ボール球でも打者から空振りを奪うことは可能だ。切れ味鋭い変化球投手ならボールゾーンで誘うことも簡単な話になる。逆に、いくら針の穴を通す制球力の持ち主でも、球威がなければたやすく痛打され、さらに際どいコースを狙おうとしボールが多くなり、四球も増えてしまう。そんな悪循環の事例もある。与四球率の本質は、まさに「ストライクを取る力」と言い換えることができる。

奪三振率は「投手の安全にアウトを取る力」「他の選手や運に左右されない投手の純粋な能力」を表すと記述されている。一言一言が野球の構造を良く言い表していて、改めて目からウロコが落ちる箇所が多かった。

このように、データ分析の最前線に立つアナリストによる指標解説は、"奥行き"と"深み"が一味も二味も異なってくる。類書にも良くある記述なので読み飛ばしてしまえ。もしそういう風に考えている読者がいるなら、大間違い。目を通しておくべきなのだ。

ただ、紙幅に限りがあるため、突っ込んだ説明を回避している箇所もあった。例えば、wRAAを求める計算式。ぜ単打や二塁打など打席結果には各々の係数が掛けられているが、これがどういうものなのか?の具体的説明は回避されていた。UZRの説明でも実際にどういう工程で判定するのか?といった細かな記述はなかった。

もしこれらについて深く知りたい方は、2013年に出た『勝てる野球の統計学』(岩波書店)をお薦めしたい。また、セイバーの根幹を成す得点期待値を実際自らの手で集計したい方は『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(講談社+α新書)にその方法が掲載されているので参考にして欲しい。


▼本書185頁より。PITCHf/xはMLBでは30球団全球場に設置されており、投手の投球にまつわる様々な数値をトラッキングで収集する。これまで「キレのあるストレート」「打者の手元で消えるスライダー」など感覚的で主観的な言葉で表現せざるをえなかった球の質に関して、「ストレートに対して平均○○cm落ちるフォーク」と具体的な言葉で語ることができるようになり、我々の観戦スタイルも大きく変わる可能性を秘めている。
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本書最大の売り、第3章:トラッキングシステムの世界



そして第3章「トラッキングシステムの世界」である。

本書最大の売りだ。野球界におけるトラッキング技術の最前線と、そのデータの読み解き方、そこからもたらされた新概念、トラッキング技術がもたらすデータ革命の可能性などについて、約100頁というたっぷりな紙幅を割き、世に紹介したのは、私が知る限りでは本書が恐らく我が国初だろう。

その大半が、座談会形式で進んでいくのも読者を惹きつける。データスタジアムの金沢慧氏、国学院大学助教でバイオメカニクスの第一人者として500人のプロアマ投手のデータを収集してきたという神事勉氏、炎のストップウォッチャーの異名を持ち、野球ライターとして全国を飛び回るキビタキビオ氏。PITCHf/xに造詣の深い3氏の座談会形式でトラッキングシステムの世界、PITCHf/xの魅力が語られていく。

ストレートはすべてシュート回転する!?



中でも、ストレートがすべてシュートする!?という記述には、ほんと、びっくりぽんだった。


金沢:日本の野球には「シュート回転のストレートはダメだ」という定説がありますが、「実はストレートはすべてシュートしている」という話から入った方が変化量は理解しやすいかもしれません。神事先生、ストレートは本当にシュート方向に変化しているのですか?

神事:はい、変化しています。私はモーションキャプチャーからボールの変化量を求めているのですが、今まで500人以上の投手のデータを取ってきたところ、大小の差はあるにせよ、ほぼすべての投手のストレートがシュートしているということが分かりました。シュートしていない投手はたった3人でした。

金沢:面白いですね。それはリリースの角度の問題なんでしょうか?

神事:そうですね。真上から腕を縦に振るような投手だとシュート方向に変化しにくいのですが、オーバースローの投手でも実際には真上でリリースできる人はほとんどいません。スリークオーターやサイドスローだと、よりシュートしますし、アンダースローの場合だとシュートしながら落ちていくというストレートもあります。腕は肩を中心とした回転運動ですので、腕の振り方がボールの回転に大きく影響を与えていると言えます。

金沢:キビタさん、このような球の変化の認識は、野球関係者にとっては一般的なことなんでしょうか。

キビタ:プロの方はともかく、一般的な野球関係者はストレートがすべてシュートしているという感覚はあまり持っていないんじゃないでしょうか。スリークオーターではなくオーバースローの投手でもストレートはシュートしている、と考えている人はあまりいないように思います。例えばきれいなストレートっを投げるタイプの代表例としては藤川球児投手がいますが、彼のストレートでさえもシュートしているということが認識されているかというと・・・・・・。


▼本書158頁より。トラッキングシステムで収集された藤川の軌道データによると、確かに右打者の内角へ10~15cmほどシュート変化し、さらに重力のみに影響を受けた時の軌道(0.0)と比べると、ホップ方向へ25~30cm変化しているのが分かる。


他にも、ニューヨークヤンキースの守護神としてMLB歴代最高652セーブを挙げる活躍を見せたマリアノ・リベラ。リベラ看板球カットボールがなぜ魔球だったのか?その謎もPITCHf/xで探っている。右投のリベラが投げるカッターは、オーバースローの左投手が投げるストレートの変化量と同じだったという衝撃の事実。打者は右投手のカッターの軌道を想定して待ち構えているのに、投げ込まれたカッターは想定された変化量ではないため、打者が対応できず仕舞いだったことが座談会で語られている。

打者が打ちにくい球とは、平均からいかに外れているかが重要とする──日本ではしばしば「落ちこぼれ」のレッテルを張られてしまいかねない球──神事氏の指摘も、大変興味深かった。一部を引用しよう。


▼本書163頁より。
20160107DATA07.jpg


神事:図3-6(上記画像参照)で示しているのは500人くらいのピッチャーの球速と回転速度の関係ですが、球速と関係速度はほぼ比例の関係になっています。球速が速い投手は腕の振りによる遠心力が大きく、指先でボールを抑えようとする力も大きくなるので、結果的にスピン量は多くなります。ライフル回転(進行方向に向かって渦を巻くような回転)がかかっていれば別ですけど、フォーシームのストレートであればスピン量が多くなるほど変化量も大きくなります。つまり速い球ほど、変化量が大きいということです。

金沢:例えば、120キロのストレートだったら毎分1800回転くらいが普通ですが、140キロだったら2100回転・・・・・・というように、球速によって原点(0.0)からの距離が変わるということですね。だから、縦方向か横方向はともかくとして「何かの理由でそんなに変化していない、だけどスピードは145キロ出ている」というようなボールを投げると、バッターとしては「来た」と思ったら、思ったよりも球が沈んで、ゴロが増える、と。

キビタ:図3-6にある右上がりの線に近いほど、バッターとしては予測がつきやすいということですね。さっきのカイケル(※MLBヒューストン・アストロズのエース投手)はその線より下なので予測しにくい。逆のパターンもいますよね。本来の球速以上にホップしたりするピッチャーも。

神事:ええ。「球は速くないのになぜか打たれない」というのはそういうことです。回転速度を速くしつつ、球速を抑えているので、バッターからすると投手がリリースした瞬間に感じている球のイメージに合わない。ピッチャーがそれを意識的にやっているのかどうかというのはありますけど。つまり、どちら側であれ、打者の予測から外れる投手が良い投手ということになります。逆に球速通りの変化量になってしまう投手は凡ピーです(笑)。


大事なのはギャップ萌え



上記グラフで赤丸で囲んだ投手のストレートこそ、打者が打ちにくい球という訳だ。楽天ファンは、球速以上にホップする投手=松井裕樹、球速は出ているのに回転数が足らず、打者が来たと思っても球が沈んでゴロになる投手=福山博之とイメージして貰えれば良いと思う。

とかく周囲との同質化を求める日本社会では、野球でも平均を示す右上がりのラインを目指しがちだが、実はそれは個性を殺す凡ピーの大量生産であって、真に打ちづらいストレートは、松井裕樹か福山博之かということになるわけだ。件の講演で山本一郎氏は、球速相応の回転数が足りない福山のストレートを「ハエが止まるような球を投げる。私でも打てそう」と評価したのを思い出す。

昨年10月23日JSAAのオープンセミナー「IT時代の野球のミカタ」に登壇した神事氏は、このことを「ギャップ萌え」と表現していた。チャラそうに見えて実はしっかりしている、家事ができなさそうにみえて料理が得意。今、そんなギャップ萌え男子が女性にモテるのだと言う。野球でも同様、球速と回転数の組み合わせの平均からいかに外れて「ギャップ萌え」を作り出すことができるか?が活躍の秘訣だと神事氏が話していたのを思い出す。

▼本書216頁より。一口にストレート、直球と表現しても、PITCHf/xで変化量を測定すると、5種類の変化量のストレートが確認できるのだと言う。ホップ型は藤川球児や上原浩治、和田毅など。真っ垂れ型はダラス・カイケルやフェリックス・ヘルナンデスなど。サイドスロー型は岩隈久志など。真っスラ型はソニー・グレイなど。平均型はダルビッシュ有、田中将大など。


トラッキングデータがもたらす野球の新世界とは



そして、本書の巻末10頁ではPITCHf/x、FIELDf/x等で採取されたトラッキングデータの活用案が提示されている。

その活用は多岐に渡る。戦略・編成レベルから作戦・戦術、選手育成などチーム強化に繋がるあらゆる階層で用いられることになりそうだ。

ここでは一部を御紹介すると、戦略・編成レベルでは査定資料として使用したり、他球団戦力外選手を獲得する際に入団テストでトラッキングデータによるパフォーマンス測定を実施することで、獲得の可否を決める判断材料に使うことなどもできる。

例えば、守備が良いという売り込みで獲得したウィーラーは西田骨折後の久米島でショートでも使えるのでは?という話が一時あった。しかし、実際にデータ測定をしたところ、三遊間方向への一歩目が0.25秒遅いことが露呈し、これにより1試合あたりの失点予測が0.25上昇してしまうことが判明し頓挫した。このようなことも入団テストで実施できれば、獲得時の判断材料にすることができるのだ。

作戦・戦術レベルではFIELDf/xで全野手の動きを追うことができるので、最適な位置取りが実施できていたかどうかポジショニング分析が実施できるようになる。球の回転数を収集できるPITCHf/xでその当該投手が何球以上投げると回転数が落ちてくるという傾向を予め掴み、試合中のベストなタイミングでの継投を可能にさせる。

選手育成レベルでは既に投手の新旧習得に役立つことは御紹介した通り。その他には疲労発見・故障防止にも役立つという。山本氏の講演では、打者のスイング時の射角にバラつきがあり一定しない時は、その打者が疲労を感じている予兆だと言う。その射角データが分かれば、その選手を早期にリフレッシュ休養させることも可能になるのだと言う。

楽天の「知恵の勝負」とは、こういうことだ



話を楽天に戻せば、2015年が始まる前、三木谷オーナーが言及した「お金の勝負じゃなくて、知恵の勝負だと思うんですよね」という知恵の勝負とは、導入したトラッキングシステムで得られた様々なビッグデータを球団運営・チーム強化の中心に据える壮大な試みのことだったと思うのだ。退団した田代コーチはこういった動きに拒否反応を示したのだと思う。あの退団劇を「オーナーの横暴によるチンケな内紛」としか捉えることのできない残念な楽天ファンにこそ、本書を読んで欲しいと思う。

本書を読むと、イーグルスや野球界が今後推進するロードマップの一端が良く確認できると思う。新たな野球の観方を「発見」することができるはずだ。

まだ未読の皆さんには開幕前にぜひ一読をお薦めしたい。新書のため、半日あれば読破できる。優しく分かりやすい平易な語り口で書かれている点も好感できる。

最後に、目次の詳細を掲載します。



■目次

はじめに 3

「セ・リーグ全球団借金」は珍事ではない?!/「セイバーメトリクス」で何が分かっているのか?/得点と失点のデータがあれば、おおよそ何勝するか分かる/ピタゴラス勝率とは/「野球データファン」の視点とは?/選手にとっての意味

第1章 セイバーメトリクスとは何か "主観"を排除してプレーを評価する 25

 「セイバーメトリシャン」の思考/「映像」ではなく「数値」を統計的に分析する/「本当は選手ではなく"勝利"を買うべきだ」/何事も「得点と失点への貢献度」で考える/「スコアラー」の視点から大谷翔平を分析すると/野球の分析に見られる課題解決サイクル/野球の「ビッグデータ化」がもたらすもの/どのようなデータで分析しているのか/一球ごとの詳細なデータ/トラッキングシステムでデータ収集が半自動化される!?/セイバーメトリクスで使うデータとは

第2章 セイバーメトリクス指標早わかり データ分析のプロによる徹底解説 51

 出塁率(OBP) 52
 長打率(SLG) 58
 OPS 64
 ボールゾーンスイング率 72
 ISO 78
 wRAA 84
 奪三振率(K/9) 90
 与四球率(BB/9) 94
 被本塁打率(HR/9) 98
 BABIP 102
 ゴロ割合 107
 FIP 112
 DER 117
 UZR 122
 WAR 134

第3章 トラッキングシステムの世界 投球、打球、選手の動きがすべて丸裸に 145

 野球のビッグデータ化を支えるトラッキングシステム/メジャーリーグは試合速報もメジャー級!?

野球の新テクノロジー「トラッキングシステム」をあれこれ語る座談会
パートI「ストレートはすべてシュートする!?」 150

「ストレート」って何だろう/ストレートはシュートしている?/藤川球児投手のストレートでもシュートしているのか/球が変化しない(0.0)の意味/「打たれやすいストレート」と「打たれにくいストレート」/「キレの良いストレート」の正体とは/「リベラのカットボール」という魔球/ボールはなぜ変化するのか/「手元でグッと曲がる」は人間の錯覚?

PITCHf/xシステムの概要 180

 PITCHf/xシステムで収集できるデータとは/変化量の考え方

野球の新テクノロジー「トラッキングシステム」をあれこれ語る座談会
パートII「ストレートを変化量で分類してみると」 187

 「ホップ型」の投手とは?/なぜ、日本人は「ホップ型」の先発投手が少ないのか/究極のストレートだが、「飛翔」に注意!/ストレートが垂れるタイプ/「真っ垂れ型」の投手は?/「ホップ型」と「真っ垂れ型」、どちらを育成すべき?/岩隈のストレートは「サイドスロー型」/「サイドスロー型」はストレートで三振が取りにくい?/「真っスラ型」という希少なストレート/「真っスラ型」は「ノビ」がない/ダルビッシュ、松坂のストレートは「平均型」/松井裕樹の投球フォームを、鏡に映して見てみると・・・・・・

FIELDf/xとは? 217

FIELDf/xで収集できるデータ

野球の新テクノロジー「トラッキングシステム」をあれこれ語る座談会
パートIII「トラッキングデータは何に役立つのか」 222

 データから「どの変化球を習得すべきか?」を知る/配球論も大きく変わる?/現場に浸透させるためには何が必要か/球審の判定は自動化されるのか/トラッキングデータで選手をスカウトする時代が来る?/見方が変われば草野球も変わる

トラッキングデータの活用案 239

 1「選手育成」への活用/2「作戦・戦術」への活用/3「戦略」への活用/4「審判」への活用/5「ファン」にとってのメリット/「データをどう表現するか」が課題

あとがき 252


◎◎◎関連記事◎◎◎
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